研究

陰謀論用語集

陰謀論の研究・教育で使われる主要な概念・用語を五十音順・カテゴリ別に解説

#用語集#定義#概念#リテラシー

A〜Z・英語略語

ARG(Alternate Reality Game / 代替現実ゲーム)
現実世界と虚構が交差するゲーム的な体験を設計した参加型コンテンツ。QAnonは謎めいた「パンくず(breadcrumbs)」を参加者が解読するARG的設計を持つと研究者に指摘されている。

BCTI(Belief in Conspiracy Theories Inventory)
Swami et al.(2010)が開発した特定の陰謀論への信奉を15項目で測定する尺度。GCBSの補完として使用される。

CMQ(Conspiracy Mentality Questionnaire)
Imhoff & Bruder(2014)が開発した5項目の簡便な陰謀論的思考傾向測定尺度。

FLICC
John Cook(モナシュ大学)が開発した誤情報の5つの操作手法の分類。Fake experts(偽の専門家)、Logical fallacies(論理的誤謬)、Impossible expectations(非現実的な要求)、Cherry picking(つまみ食い)、Conspiracy theories(陰謀論的思考)の頭文字。

GCBS(Generic Conspiracist Beliefs Scale / 汎用陰謀論信奉尺度)
Brotherton, French & Pickering(2013)が開発した15項目・5因子の心理測定尺度。特定の陰謀論の内容ではなく、陰謀論的世界観の強度(傾向)を測定する。

HAARP(High-frequency Active Auroral Research Program)
米国アラスカ州の電離層研究施設。「地震やハリケーンを引き起こす気象兵器」という陰謀論で繰り返し登場するが、科学的根拠はない。

LIHOP(Let It Happen On Purpose)
「意図的に起こさせた」。事前情報を持ちながら意図的に防がなかったという陰謀論の類型(→4パターンの②容認)。

MIHOP(Made It Happen On Purpose)
「意図的に起こした」。権力者が事件を計画・実行したという陰謀論の類型(→4パターンの③故意)。

MKウルトラ(MK Ultra)
1953〜1973年に米CIAが実施した、市民に無断で人体実験を行ったプログラム。1977年の議会公聴会で政府が正式に認めた「確認済みの陰謀」。反証不可能な陰謀論との重要な対比事例。

NWO(New World Order / 新世界秩序)
一握りのグローバルエリートが民主主義・国家主権を廃止して世界独裁政府を樹立しようとしているという陰謀論。1990年代以降に広まり、QAnonをはじめ多くの現代陰謀論の基盤となっている。

SIFT法
Mike Caulfield(2017)が提唱する情報評価の4ステップ。Stop(止まる)、Investigate the source(発信源を調べる)、Find better coverage(他の報道を探す)、Trace claims(主張を元の文脈に戻す)。「情報を疑う」から「情報を評価する」スキルへの転換を促す。

WWG1WGA
QAnonの合言葉「Where We Go One We Go All(われわれは一体)」の略語。強い集団的アイデンティティと使命感を表す。


あ行

アストロタrfing(Astroturfing)
人工芝(AstroTurf)に由来する造語。実際には少数の組織・資金が背後にあるにもかかわらず、大勢の一般市民の自発的な運動に見せかける世論操作手法。

アンカリング(Anchoring)
陰謀論への対話戦略の一つ。「陰謀論に嵌る前は何を信じていたか」を思い出させることで、以前の自己との連続性を持たせる技法。

インフォデミック(Infodemic)
「情報(Information)」と「パンデミック(Pandemic)」の合成語。2020年にWHOが提唱した概念で、感染症の流行と同時に誤情報・陰謀論が急拡散する現象を指す。

エージェント検出バイアス(Agent detection bias)
ランダムな出来事や自然現象に「意図を持つ主体(エージェント)」を見出そうとする認知的傾向。「これは誰かが仕組んだに違いない」という直感の源泉。

エコーチェンバー(Echo chamber / 反響室)
同じ意見・信念を持つ人々の間でのみ情報が循環し、その信念が強化されていくSNS上の現象。異なる意見に触れる機会が減り、陰謀論の定着を促進する。

エリート論的陰謀論(Elitist conspiracy theory)
エリート・権力者・支配層が庶民を欺き支配しているという構造を持つ陰謀論の総称。ポピュリズムと親和的。


か行

カバール(Cabal)
秘密の集団・陰謀集団を指す語。QAnonでは「ハリウッドセレブ・民主党政治家・財界人からなる悪魔崇拝の小児性愛ネットワーク」を指す。中世の秘密結社的イメージと現代の反ユダヤ的陰謀論が融合している。

確証バイアス(Confirmation bias)
自分の信念に合致する証拠だけを拾い、矛盾する証拠を無視・軽視する認知的傾向。陰謀論的思考の維持において中心的な役割を果たす。

覚醒(The Great Awakening)
QAnonの概念で、「眠れる一般市民が真実に目覚めるプロセス」を指す。宗教的・黙示録的な意味合いを持つ。

黒幕型陰謀論(Hidden Hand conspiracy)
表の出来事の背後に真の支配者・操り手がいるという物語テンプレート。「パペットマスター(puppet master)」とも呼ばれる。イルミナティ、ディープステート、ロスチャイルド一族などがその「黒幕」として登場する。

クライシスアクター(Crisis actor)
事件や災害が「捏造」だという主張で、「被害者・目撃者・遺族はすべて雇われた俳優だ」と主張する際に使われる語。Sandy Hook事件否定論、9.11陰謀論などで見られる。主張を反証不可能にする機能を持つ。


さ行

Jアノン
QAnonの日本版。2020年頃から日本語圏で拡散し、QAnonの「カバール vs. トランプ」という枠組みに皇室・天皇・スピリチュアリズムなどの日本独自の要素が接合した形で展開している。

自己封鎖的推論(Self-sealing reasoning)
反証証拠すら「陰謀の証拠」として取り込んでしまう推論の構造。Keeley(1999)が指摘したunwarranted conspiracy theoryの特徴。「証拠がない」→「証拠が隠されている」という論理がその典型。

神真都Q(やまとキュー)
QAnon・Jアノンから派生した日本の反ワクチン団体。2022年4月、ワクチン接種クリニックへの乱入・業務妨害で5人が逮捕された。日本で陰謀論が現実の犯罪行為に直結した顕著な事例。

シオン賢者の議定書(Protocols of the Elders of Zion)
1903年にロシアで作られた反ユダヤ主義的偽書。ユダヤ人指導者が世界支配を計画した会議の議事録を装う。1921年に偽書と確認されたが今も流通。ナチズムの台頭に貢献し、現代の陰謀論の多くの原型となっている。

シープル(Sheeple)
「羊(sheep)」と「人々(people)」の合成語。陰謀論を信じる人々が、真実に気づいていない一般市民を「政府・メディアに操られた羊のような人々」と呼ぶ蔑称。

スーパー陰謀論(Superconspiracy)
Barkun(2003)の分類における最大規模の陰謀論。複数の陰謀論が統合され、単一の超巨大な支配体制が世界を動かしているという世界観。QAnon・新世界秩序論などが典型。

スケープゴート(Scapegoat)
複雑な社会問題の原因を特定の集団・人物に帰属させる現象。陰謀論において「悪の黒幕」として特定の集団(特定民族・宗教・政治勢力)が標的にされる。


た行

大置換論(The Great Replacement)
フランスの作家ルノー・カミュが2011年に提唱した陰謀論。「白人キリスト教徒は政治エリートによって移民・イスラム教徒に意図的に置き換えられようとしている」という主張。複数のテロ事件の犯人が動機として言及。

脱ナチ化論(Denazification / ロシアの文脈)
2022年のロシアによるウクライナ軍事侵攻の根拠として採用された「ウクライナはネオナチ集団に支配されている」という陰謀論的枠組み。国家が軍事行動の正当化に陰謀論を公式採用した事例。

Dolchstoßlegende(背後からの一突き)
第一次大戦でのドイツ敗北(1918年)後に広まった陰謀論。「前線の軍は負けていなかったのに、国内のユダヤ人・共産主義者が裏切った」という主張。ナチズムの台頭を招いた陰謀論として歴史的に重要。

デジタル戦士(Digital soldier)
QAnonにおいて、オンライン上で情報を拡散し「The Stormに向けた準備」をすると称する活動家の自称。陰謀論コミュニティへの役割付与・帰属意識の強化に機能する。

デバンキング(Debunking)
事後的に誤情報や陰謀論を「誤り」と指摘し訂正するアプローチ。バックファイア効果のリスクがあり、陰謀論の転換点(自己封鎖的推論の段階)を超えた人には効果が限定的。→プレバンキングと対比。

ディープステート(Deep State)
民主的な選挙や指導者の意向とは無関係に、政府内部で実質的な権力を握って政策を操作しているとされる隠れた官僚・軍・情報機関の集団。QAnonや右翼ポピュリズムで中心的な概念。

動機づけ面接(Motivational Interviewing / MI)
臨床心理学の技法で、陰謀論との対話にも応用される。信念を直接攻撃するのではなく、その背後にある感情・動機・欲求に焦点を当て、変化への内発的動機を引き出す。


な行

ノーミーフィケーション(Normiefication)
フリンジなオンラインサブカルチャー(4chan・8chanなど)で生まれた陰謀論・コンテンツが、より広い一般大衆(normie)に拡散していくプロセス。QAnonの拡散経路を分析した研究で使用された概念。


は行

バースター運動(Birther movement)
「バラク・オバマはケニア生まれでありアメリカ市民権を持たないため、大統領資格がない」という陰謀論。証拠が示されても信念が変わらない典型的事例。ドナルド・トランプが積極的に拡散し政治的台頭の足がかりとした。

パターンシティ(Patternicity)
Michael Shermer(2011)が提唱した概念。ランダムな出来事や意味のないノイズの中にパターン・意味・意図を見出そうとする人間の認知的傾向。陰謀論的思考の認知的基盤の一つ。

パノプティコン的思考(Panopticon thinking)
監視される側が常に監視されていると感じることで行動を変える効果。陰謀論においては「政府が常に市民を監視している」という信念に対応する。

パラノイア的スタイル(Paranoid style)
Richard Hofstadter(1964)が定式化した、アメリカ政治における陰謀論的思考の特徴。①壮大なスケール、②敵の完璧な組織化、③道徳的決戦の感覚という3要素からなる。臨床的なパラノイアとは区別される政治的修辞の様式。

比例バイアス(Proportionality bias)
「大きな出来事には大きな原因があるはず」という直感。JFK暗殺が「単独犯の仕業」という説明では不釣り合いと感じ、より「大きな陰謀」を求める心理。

フィルターバブル(Filter bubble)
SNSのアルゴリズムが利用者の関心・行動履歴に基づいて情報を選別して提供するため、自分の既存の信念に合致する情報だけが届くようになる現象。エコーチェンバーを生み出す構造的要因。

偽旗作戦(False flag operation)
本来は「敵国の旗を偽って行う工作作戦」という軍事用語。陰謀論では「実際の加害者が別の者に罪をなすりつけるために行う自作自演の事件」を指す。→4パターンの①悪用に相当。

フラットアース(Flat Earth)
「地球は球体ではなく平面であり、NASAや各国政府が球体だと長年嘘をついている」という陰謀論。科学的に否定されているにもかかわらず、SNSの動画コミュニティを中心に独自のコミュニティを形成している。

プレバンキング(Prebunking)
誤情報や陰謀論を事後的に訂正するのではなく、事前に「免疫」をつけるアプローチ。接種理論(Inoculation theory)に基づく。特定の陰謀論の内容より「操作の手法(FLICC)」を教える方が汎用的な免疫につながる。

フリーメイソン(Freemasons)
18世紀に成立した秘密結社的な友愛団体。陰謀論では「世界を裏で操る秘密組織」として繰り返し登場するが、実態は慈善活動等を行う会員制団体。

ブルーピル(Blue pill)
映画『マトリックス』の比喩。「都合のいい真実(幻想)の中で眠り続けることを選ぶこと」を指す。→レッドピルの対義語。

血の誹謗(Blood Libel)
中世ヨーロッパで広まった「ユダヤ人がキリスト教徒の子供を儀式に使う」という根拠のない中傷。現代のQAnonの「カバールが子供の血を飲む」という信条と構造的に同一。

比例バイアス(Proportionality bias)
大きな出来事には大きな原因があるはずという直感的思考。JFKの暗殺が一個人の犯行というのは不釣り合いと感じ、より大きな陰謀の説明を求める。


ま行

マッカーシズム(McCarthyism)
1950〜1954年に米上院議員ジョセフ・マッカーシーが主導した「共産主義者が政府・軍・ハリウッドに浸透している」という陰謀論的キャンペーン。Hofstadter(1964)の「パラノイア的スタイル」論の主要分析対象。国家が主導した公式陰謀論の典型例。

モノロジー(Monological belief system)
Wood et al.(2012)が発見した、陰謀論信奉がパッケージ化している現象。一つの陰謀論を信じる人は、互いに矛盾する複数の陰謀論も信じやすい。個別の陰謀論への信奉ではなく「陰謀論的世界観」への帰属が起きていることを示す。


ら行

ラビットホール(Rabbit hole)
陰謀論への没入プロセスを「ウサギの穴(不思議の国のアリス)」に喩えた表現。YouTubeのアルゴリズムなどが次々と関連動画を推薦し、気づかないうちに過激な陰謀論コンテンツへ誘導する現象にも使われる。

レッドピル(Red pill)
映画『マトリックス』の比喩。「不都合な真実(陰謀論の世界観)に目覚めること」を指す。「レッドピリング(redpilling)」は誰かを陰謀論に誘導するプロセスを指す動詞としても使われる。


わ行

ワランテッド vs. アンワランテッド(Warranted vs. Unwarranted conspiracy theory)
Keeley(1999)の分類。Warranted(正当な陰謀仮説)は証拠によって評価可能で反証の余地がある。Unwarranted(不当な陰謀論)は反証証拠すら「陰謀の証拠」として取り込む自己封鎖的構造を持つ。


関連する認知・心理学用語

イデオロギー的免疫(Ideological immunity / Planck problem)
経験を積むほど既存の世界観が確固たるものに見え、矛盾するアイデアを拒否しやすくなる現象。Shermer(1997)が指摘。

意図せざる結果(Unintended consequences)
社会現象の多くは誰かの意図的な計画の産物ではなく、多数の個人の行動が予期しない形で組み合わさった結果として生まれる、というPopper(1962)の概念。「社会の陰謀理論」批判の核心。

後付け推論(Post hoc ergo propter hoc)
「Aの後にBが起きた、ゆえにAがBの原因だ」という誤謬。「9.11の前日に〇〇があった→計画されていた」という陰謀論的推論の典型。

認知的不協和(Cognitive dissonance)
自分の信念と矛盾する情報に接したときに生じる精神的不快感。この不快感を解消するために、信念を変えるのではなく新情報を否定・無視する方向に働くことが多い。

認識論的閉鎖(Epistemic closure)
特定の情報源・世界観以外を完全に遮断し、外部からの情報を受け入れなくなった状態。陰謀論への深い没入の末期的状態。

パレイドリア(Pareidolia)
無関係なパターン(雲・月面など)に顔や意味を見出す知覚現象。Patternicity の視覚的バリアント。「月に顔が見える」「雲が○○の形をしている」などの日常的な例がある。